
UAゼンセン重点課題
労働・社会政策
労働時間改革とワーク・ライフ・バランスの推進
女性や高齢者の労働参加を促進し、健康・安全・ワーク・ライフ・バランスに配慮した労働環境を整備する。時間外労働の上限360時間の義務化、休日労働・月45時間超の時間外労働の割増率50%への引き上げ、勤務間インターバル制度(11時間)の義務化、年次有給休暇の最低日数20日への引き上げと連続休暇取得の義務化を推進する。さらに、週35時間を目標とした法定労働時間の段階的削減や、年10日程度の病気有給休暇の法制化を検討する。
また、勤務時間外の業務連絡を制限し、労働者が業務時間外に働かない権利(「つながらない権利」)を確立する。
働き方改革関連法の施行以降、一定の進展は見られるものの、依然として日本の労働時間は他の先進国に比して長く、特に非正規・サービス業を中心とした業種では長時間労働が常態化している現状がある。
時間外労働の上限規制や割増賃金率の見直しは、現行制度では一部の例外を認めており、制度の実効性を高める観点から、上限時間の厳格化と割増率の引き上げが求められている。勤務間インターバル制度の義務化についても、導入済みの企業は中小企業で1割以下にとどまっており、疲労回復のための時間確保を全労働者に保障する制度の整備が急務である。
年次有給休暇の取得率は依然として50%台で推移しており、最低付与日数の引き上げや2週間を目標とした連続休暇の義務化によって、真の意味での「休暇の質」を高める必要がある。加えて、年10日程度の病気休暇の法制化については、風邪や通院等の軽度な体調不良で欠勤しても収入が保障される制度を整備することにより、感染症拡大防止や定着率向上にもつながるとして、労使双方から導入 が期待されている。
法定労働時間については、現行40時間を段階的に週35時間へと引き下げる方向性での議論が必要であり、これは高齢者や家庭を持つ労働者の参画促進にも資する。 欧州諸国においては、週35時間制や4日労働制など多様な形態が実現されており、働き方の柔軟性が経済成長や生活満足度向上に寄与しているとの報告もある。
2024年1月以降開催されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会」では、「勤務時間外の業務上の連絡や対応」が労働者の生活に与える影響が指摘されており、「つながらない権利」の法制化が重要な検討課題とされている。つながらない権利」とは、従業員が時間外に、仕事上での電話・メールなどの一切の連絡を拒否できる権利であり、権利を導入するプロセスにおいては、①労働者が通常の業務時間外には働かない権利、②労働者が権利を行使しても悪影響を被らない権利、③他者がつながらない権利を尊重する義務、の3つの要素がある。「つながっている時間」が長いことは、業務時間外における「心理的距離」(仕事のことを考えない程度)と「リラックス」の度合いが低く、「バーンアウト」の度合いが高くなる傾向があると言われており、精神的な疾患リスクが高くなる。
また、企業の中では、勤務時間外のメール・電話対応を制限するためのマニュアル整備や自動転送の仕組みを導入する動きも見られており、実効性ある制度としての確立が求められている。加えて、フランスでは2016年に法制化され、スペイン・ベルギーなどでも導入が進んでいるように、「つながらない権利」はすでに国際的な規範となりつつある。日本国内でも労働弁護団や連合などが法制化の必要性を提起しており、今後は企業ごとの自主的取り組みだけでなく、制度的裏付けが求められる局面に入っている。
こうした流れを踏まえ、UAゼンセンとしても、健康確保・生活の質向上・多様な人材の就労促進の観点から、「つながらない権利」を含む労働時間政策の強化が喫緊の課題であると認識し、実効性ある施策の実現を図っていく必要がある。
[各国の主な事例]
・フランス:従業員50人以上の企業を対象に労使協議の上、業務時間外の「つながらない権利」に関する定款の策定を法令で義務付け
・イタリア:「つながらない権利」を雇用契約に明記することを義務付け
・ポルトガル:緊急時に連絡可能とする例外は設けられているものの、業務時間外の連絡の原則禁止を定め、違反した企業には罰金が科される
・ベルギー:労働協定にて、従業員が20人以上の企業では、勤務時間外に連絡を拒否できる「つながらない権利」を導入
・スペイン:「個人データ保護とデジタル権利保障に関する組織法」にて「つながらない権利」を規定
・メキシコ:「テレワーク法」にて「つながらない権利」を使用者に義務化