
重点継続課題
労働・社会政策
国際的な公正労働基準の順守と人権デュー・ディリジェンスの推進
ILO中核的労働基準10条約のうち未批准の第111・155号条約の早期批准を行なう。
サプライチェーン等における人権尊重に係る日本企業労使の取り組みを進めるため、政府が策定した人権デュー・ディリジェンスの実施に関する企業向けガイドラインの周知や労使に向けた研修の実施、好事例の発信、社会的機運の醸成を進める。また、サプライヤーに対しリスク評価を実施する際の費用負担や情報収集および人権確保のコストを含む発注のあり方について、ガイドラインにおいて考え方を示す。
さらに、労働組合が参画して産業別ガイドラインの策定を進め、産業別の苦情処理メカニズムの設置を検討する。
企業規模を問わず人権デュー・ディリジェンスの取り組みが推進できるよう、「ビジネスと人権」ポータルサイトの内容の拡充をはかるり、中核的労働基準をはじめとする人権課題の理解促進に資する器材や、国別、製品別人権リスクのデータ提供を行う。特に労働基本権に関しては、国際労働組合総連合(ITUC)の「グローバル・ライツ・インデックス」を採用し、最新の情報を提供する。
現行のビジネスと人権に関する国別行動計画(2020-2025年)の見直しに際し、先立ち人権を保護する国家の責務に関する取り組みとして、独立した人権機関の創設を盛り込む。また、政府ガイドラインに基づく企業の取り組み状況を確認・評価し、ステークホルダー参画のもと、人権デュー・ディリジェンスの法制化に関する議論を開始する。
法制化にあたっては、中核的労働基準を最低限対象リスクにするとともに、労働組合の関与を明文化する。
ILOの中核的労働基準は、2022年のILO総会で「安全で健康的な労働環境」が追加され、5分野10条約となった。これら10条約(※1)のうち、日本が未批准であった強制労働廃止についての105号は、2022年7月に批准が実現した。差別待遇(雇用・職業)についての111号および職業上の安全及び健康に関する155号について早期の批准に向け取り組むことが必要である。
さらには、1号(1日8時間・週48時間制)をはじめ、47号(週40時間制)、132号(年次有給休暇1年勤務につき3労働週、分割した場合でも最低連続2労働週)、140号(有給教育休暇)など、日本は労働時間・休暇関係の条約を一本も批准しておらず、批准に向けた取り組みが求められる。
欧米では、サプライチェーン等に対する人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の義務化が進み(※2)、日本でも、政府や産業別ガイドラインの策定が行われるなど(※3)、企業に人権尊重を求める動きが加速している。特に、2024年5月にはEUで企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令が採択されており、加盟国は、2026年7月までの国内法化が求められる。本指令は、EU域内企業のみならず、日本企業を含むEU域外企業にも適用されるものである
また繊維産業では、特定技能1号外国人を受け入れる際の上乗せ要件として国際的な人権基準への適合が求められており、狭い範囲での法制化ともいえる。経済産業省がこの動きにあわせ繊維産業向けの人権監査の仕組み(Japanese Audit Standard for Textile Industry(JASTI))を策定した際には、UAゼンセンがワーキンググループに参画し意見反映を行った。人権DDに係る遍く審議会等において、同様に労働組合の参画を確保する必要がある。
企業規模や人的・財政的リソースの違いによらず人権DDに取り組めるよう、各国の関連法令や国別・産業別人権リスクの最新情報など、政府による実用的な情報提供の拡充を急ぐ必要がある。加えて、人権尊重に係る取り組みの推進体制を整備するにあたり、「ビジネスと人権」に関する日本政府の国別行動計画の見直しに際しては、独立した人権機関の創設を盛り込み、早急に実現すべきである。
また、日本政府のガイドラインに基づく企業の自主的な取り組み状況を確認し、法制化に向けた検討を行うなど、具体的なフォローアップが必要である。係る法整備は、実効性ある人権DDの大前提である労働基本権の確保や労働組合の関与を前提に行う必要がある。
加えて、サプライヤーへの人権監査等を実施する企業があるなか、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の趣旨に照らし、発注側、受注側が対等な立場で人権確保の取り組みが行えるよう、監査や費用負担の適正な在り方の提示が必要である。
なお、多国籍企業のサプライチェーン上の諸課題に関して労使の取り組みを定めるグローバル枠組み協定(GFA)は、人権DDを進めるうえで有効な取り組みとして、周知が必要である。
また、アパレル産業で先行して取り組みが進んでいるサプライヤーリストの公開についても、情報開示の質を高め、サプライチェーンの透明化に資する取り組みであり、好事例としての発信が効果的である。
※1 ILOの中核的労働基準10条約
結社の自由・団体交渉権の承認 | 結社の自由および団結権の保護に関する条約(87号)団結権および団体交渉権についての原則の適用に関する条約(98号) |
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強制労働の禁止 | 強制労働に関する条約(29号) |
強制労働の廃止に関する条約(105号) | |
児童労働の禁止 | 就業の最低年齢に関する条約(138号) |
最悪の形態の児童労働の禁止および廃絶のための即時行動に関する条約(182号) | |
差別の撤廃 | 同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(100号)雇用および職業についての差別待遇に関する条約(111号) |
安全で健康的な労働環境 | 職業上の安全及び健康に関する条約(155号) 職業上の安全及び健康促進枠組条約(187号) |
※2 人権デュー・ディリジェンス法制化の状況
アメリカ | カリフォルニア州サプライチェーン透明法(2010年) |
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イギリス | 現代奴隷法(2015年) |
フランス | 企業注意義務法(2017年) |
オーストラリア | 現代奴隷法(2018年) |
オランダ | 児童労働デュー・ディリジェンス法(2019年) |
ドイツ | サプライチェーン・デュー・ディリジェンス法(2023年) |
EU | 企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(2024年5月) |
※3 日本政府・労働組合・業界団体の動き
2020年3月 | 電子情報技術産業協会 | 「責任ある企業行動ガイドライン」策定 |
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2020年10月 | 日本政府 | 「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)策定 |
2021年12月 | 日本経済団体連合会 | 「人権を尊重する経営のためのハンドブック」策定 |
2022年7月 | 日本繊維産業連盟 | 「責任ある企業行動促進に向けたガイドライン」策定 |
2022年9月 | 経済産業省 | 「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」策定 |
2022年8月 | 金属労協 | 「人権デュー・ディリジェンスにおける労働組合の対応ポイント」策定 |
2022年12月 | UAゼンセン | 「サプライチェーン等における企業の人権尊重の推進に向けたUAゼンセンの取り組みについて」策定 |
2023年8月 | 連合 | 「ビジネスと人権に関する連合の考え方」策定 |
2023年11月 | 日本百貨店協会 | 「百貨店の人権デューディリジェンスの手引き」策定 |
2023年12月 | 農林水産省 | 「食品産業向け人権尊重の取組のための手引き」策定 |
2025年3月 | 経済産業省 | 「Japanese Audit Standard for Textile Industry(JASTI)策定 |